鍼灸師の国家試験は2月末に行われて、合格率は70%台のことが多いのですが、はり師の合格率は平成29年2月に行われた合格率は60%台、平成30年2月に行われた合格率は50%台になりました。国家試験になって26回目ですが、最初の平成4年度が88.8%でそれ以降はどんどんと低下して現在の数値になっています。
柔道整復師の合格率も最初の平成4年度の合格率が90.3%でそれ以降はどんどんと低下し、第26回では58.4%になっているので、合格率は低下してきていますね。
鍼灸だけではなく、柔整も合格率が低下してきているのは関係がありそうですね。ということで、グラフを作成してみました。鍼と灸は試験が分かれていますが、内容はほとんど変わらないので、鍼の合格率で話しを進めていきます。ちなみに受験者数・合格者数と比べると、合格率が低い数字なので見にくいですが、受験者数と合格者数でイメージはできるのではと思ってます。
鍼灸だと鍼・灸で分かれているので鍼の受験者数、合格者数、合格率です。
こちらは柔道整復師の受験者数、合格者数、合格率です。
どちらの図も、人数が増加していっているところがありますが、規制緩和によって学校が多くできたからですね。学校が増えたことで、今まで入りたかった人、鍼灸に流入しなかった人などの流入があり、受験者数、合格者数が増えたといえますね。
国家試験の合格率が低下した理由としてはいくつか考えられますが、どれなのでしょうか。
- 学生の基礎学力が低下している
- 学校が増え教育の質が低下した
- 資格を取れない既卒者が増えた
- 問題が難しくなった
1.学生の基礎学力低下
ゆとり教育と言われたように、学生に暗記や結果を求めない時期が続いたし、大学全入という時代、就職もしやすい時代なので、勉強をするというのに慣れていない、留年や浪人が当たり前ではない時代になったのではないでしょうか。
いや、本当にそうなのかはわかりませんけどね。ただ、私は団塊ジュニアあたりなので大学は入りたくても入れないし、卒業した後も就職氷河期だったので、「入れない」のが当たり前だったですし、鍼灸学校も入るのがまだ大変な時期だったので、鍼灸に入ったときも出来る人の方が多かったのではないかなと思います。
今は、学校が増えたおかげで、入りたいけど、なかなか入れなかったという人も取り込みが終わったでしょうから、高卒すぐの人も多くなってきたではないでしょうか。そうなると、勉強・時間の管理が不慣れでしょうし、大学に行けない人で進学してみたいなという人も入ってくる状況になっているでしょうから基礎学力の低下もありえそうですね。
2.学校が増え教育の質が低下した
これはどうでしょうかね。確かに、教員歴が短い人が多くなったという点からすれば教育の質が低下したとも言えますが、私が資格を取ったときは、授業は独創的というか突き抜けている授業もありましたし、質が高かったかは疑問です。
さらに前の世代だと、授業に行ってない、聞いていないと話しを聞くことがありますし、以前のような学校が少ないときの方が教育の質が高かったとは言えないですね。
新卒の人と会って話を聞くと、古い学校、新しい学校でも国試対策などをしっかりと行っているので、その点で言えば、教えよう、覚えてもらおうという努力は学校が増える以前よりもしていると思います。
昔からある学校も守られた環境から競争という社会の中に入ることになったので、教育の質、サービスは嫌でも向上したのではないでしょうか。
3.資格を取れない既卒者が増えた
新卒で資格を取得できなければ、国家試験は年に一度なので、次の年に受験することになりますが、既卒者の合格率は非常に低い状況なので、資格を取れない人が何度も受験をして合格率を下げている可能性はあります。
となるのですが、数字を見てみると、落ちた人が毎年受け続けていくのであれば、受験者数も伸びていくはずなのですが、受験者数が落ちているので、1、2回の受験で諦める人が多いのではないでしょうか。
勉強は自分で出来る人であれば、2回目でも合格しやすいでしょうけど、そういう方であれば1年目で合格していますよね。勉強を一人で継続し続けるのは本当に大変なので、2~3回受験して諦めてしまうというのが多いのではないでしょうか。
4.問題が難しくなった
いろいろと見て行くと、やっぱり問題が難しくなっているので、合格率が低下しているというのが理由としては妥当なのではないでしょうか。私が受験したときは、単純な記憶問題が多かったような気がしますし、文章も短かったので、解きやすかった印象ですが、現在の問題を見てみると、問題文や選択肢の文章も長くなり、単純な記憶問題が減っていると思います。
私はいくつかの資格を取得しましたが、他の資格だと文章が長く、まずは問題を読み解くのが大変なので、その点からすると、まだまだ簡単な文章だとは思いますが、以前の問題と比較すると難易度は上がっていると思います。
もし、合格率が低下している原因が難易度の向上であれば、資格者を抑制したいということになるのでしょうか。それとも、資格者の知識量を増やしてもらいたいということでしょうか。
柔整の方も合格率が低下していますが、学校が増える前の状況から比較するとまだまだ多い状況ですね。
鍼灸も柔整も保険を利用できるので、医療費抑制のために資格者を抑制すると言うのは考えることができますね。ということで、平成21~27年度までの医療費の推移を見てみます。
医療費は、年々増加している状況にあるのは、高齢化社会で医療費が増大しているためだと考えられますね。柔道整復では、資格者は増え、開業件数も伸びているはずなのに医療費は減っているので、自費治療という名の整体系に移行しているか、苦しくなっている可能性があります。または、柔道整復の医療費は減っていますが、鍼灸・マッサージの医療費は増えているので、整骨院が鍼灸・マッサージの保険に移行したのであれば、数字上の帳尻は合いそうですね。
保険を使うということは、国の財政にも関わってくることなので、資格者の調整は行われてもおかしくないですね。ちなみに、医師の受験者数と合格者数のグラフも作成したので、こちらになります。
見てみると、微増していますが、一定の状態ですよね。看護師は必要数を獲得するために、合格のボーダーラインが移動するので、医療に関わる資格者は国によって制御されているということですね。
ついでですが、あましの受験者と合格者も載せておきます。
この図を見ると、あましの受験者と合格者はともに減少傾向にあるのが分かります。学校数が増えていないので、単純に資格を取りたいと思っている人が減っているのではないでしょうか。
または、マッサージであれば資格がなくても無資格、他資格でも行っている状況なので、わざわざ資格を取得しないということなのでしょうかね。資格者が少ないので、現場や企業は、資格者を入れられないので、無資格に向うのも止められない流れなのでしょうね。
私は、あましも持っていますが、学校であん摩・マッサージ・指圧を全部習ったという優位性はありますが、社会に出てからの優位性は保険を使えるという点だけで、資格を持っている人も少ないからか、あん摩・マッサージ・指圧の資格は国家試験で取るのは金額・時間含めて大変という認識も薄いですね。
あん摩・マッサージ・指圧は、社会という現場に出てからは、「しっかり習った」「点数がよかった」「資格がある」ことが重要なのではなく、「相手が納得した」ことの対価として料金を頂くので、無資格店舗が多い現状、整骨院もマッサージ化している状況からすると、社会に出てからは激戦ですね。
5.今後の合格率がどうなるか?
いろいろと自分なりに理由を考えていきましたが、現状として思うのは、今後も鍼灸師の資格試験は少しだけ難しくなって、合格率が若干、低下していくのかなと思います。と言ってもさすがに、合格率が10~30%の資格という位置づけにはならないかなとは思うので、50~60%の間なのかなと勝手に思っています。
理由としては、学校が減って受験者が減ったとしても、増大する医療費抑制、介護等の費用、人口減少による財政問題からすれば、救急・感染症拡大を抑えるために現代医学の費用は削っていくのが難しいでしょうから、鍼灸・柔整の資格者抑制から医療費抑制と言う点は残りそうだからです。
今回の国家試験の問題をざっと見てみましたが、以前よりは難しくなっているとは思いましたが、しっかりと勉強していれば取れるだろうなとは思ったので、受験する人達の学力の低下、モチベーションの低下が影響している可能性はあるのではないでしょうか。
モチベーションの低下が発生する理由としては、業界に企業という形を取っているところが少なく、個人事業主か、大手でもまだまだ企業というより徒弟制度に近いところが多く、勤務時間が長い、給与が低いという点もありえますね。
さらに、人を治したい、東洋医学を学びたいと思って入学しても、学校だけではなかなか治せない、東洋医学を学びたかったけど現代医学が多かったという思いが生じることがあるのではないでしょうか。私の周りでも、キャリアチェンジをしたくて学校に来たけど、働きにくいので、キャリアチェンジは止めたという人はいましたしね。
マイナス点ばかりあげましたが、それでも治療をしていくというのは大変だけど楽しいことですし、キャリアチェンジも上手く行っている人もいるので、どんな物事もそうですが自分次第と言えますね。司法試験と比べれば、はるかに合格率が高い資格ですしね。
鍼灸学校が増え、資格を取るための学習はしやすくなった半面、資格取得という出口は狭いというのは、在学中に勉強をしていかないといけないという気持ちになるので、「学ぶ」というのにはいい傾向ではないでしょうか。
ここまで好き勝手に書いてみましたが、実際に決定に携わっている訳もないので、適当にあれこれと書いてみました。