日本鍼灸と中医学の治療に対する考え方の違い

Pocket

 日本の鍼は細くて鍼管を利用し、中国の鍼は太くて鍼管を利用しないという違いがありますが、鍼という道具の違いは、治療に対する考え方の違いが大きく関係しているのではないでしょうか。

 鍼灸治療は、身体にあるツボに対して、鍼や灸を行うことで、自律神経に作用し、全身状態を変化させる治療です。東洋医学では、ツボに対して刺激を行うことで臓腑・経絡に働きかけ、気血津液に働きかけることで、全身状態を変化させ、症状を生み出している身体を変化させていく治療になります。

 

1.日本鍼灸の特徴

 日本鍼灸という形も理論もないというのは残念ですが、治療に対する考え方は流派があり、様々なやり方があります。治療が違うのは、身体に対する考え方に違いがあるので、治療のアプローチや道具が変わることがあります。違うというのは個性でもあり、面白いところではありますが、まとまりがないとも言えますね。

 

 日本鍼灸では細い鍼を利用して、鍼管を使いますが、細い鍼を使わない人もいるし、鍼管は使わないという人もいるので、「日本鍼灸とは何か?」という問いに対して明確な回答を出すのは難しいことです。

 

 他には触診情報を大切にしているので、細かく触って反応をみたり、腹診をしたりして、触診を重視するところがあげられます。流派があることで、いろいろなやり方があって面白いところではありますが、初心者や一般の方、他流派からは分かりにくく、情報という障壁が強いので、閉鎖的な状況になっているのではないでしょうか。

 

 治療に対する考え方はバラバラになってしまっていますが、全体を通してみれば、触診を重視するので腹診や脈診をよく行い、ソフトな刺激を好むので、鍼管と細い鍼を使って治療していると言えます。

 

2.中医学の特徴

 中医学は、現在の東洋医学概論がそうですし、過去の教科書、国家試験でも出題されているので、中医学は四字熟語というイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。中医学での鍼のやり方は中国鍼という日本の鍼よりは太い物を使い、鍼管を使わずに治療していきます。

 

 中国鍼は日本で日常的に使われる鍼よりは太いですし、鍼管を使わないで刺していくので、習熟していないと痛みを生じやすいです。鍼を持つところの鍼柄は日本の鍼柄よりも長いので、持つことや補瀉手技をするときに扱いやすい構造になっています。

 

 鉛筆など筆記用具も、書くところだけで短いと扱いにくいですが、通常のタイプの長さだと書きやすく感じますよね。これと同じで、何かをするのに、ちょうどの長さだと、いろいろと扱うのには不便になります。

 

 中医学では弁証という四字熟語を利用することが多いので、理論がはっきりとしています。触診情報も利用していきますが、日本鍼灸と比較すると、それほど触らずに、問診などの診察によって決定していくことが多いですね。

 

 全員がそうではないですが、鍼を刺した後に響きを出すことも多いので、中国鍼に慣れていない人からしてみれば、鍼は太いし、刺した後は響くので、痛みが強い治療と思う人も多いのではないでしょうか。私も学生から卒業してしばらくは痛みが強い治療というイメージがあったのですが、いろいろな鍼を受けたり、上手な人の鍼を受けたりしたことによって、中国鍼が痛いのではなくて、技術の問題なのだなと思うようになりました。

 

3.日本鍼灸の特徴が何故生まれたのか?

 日本鍼灸は痛みとして感じるのが弱く、触ることを重視しているのですが、何故、このような形になったのでしょうか。中医学と比べると、問診情報よりも身体の情報を重視して、治療中も身体の情報を主としているのは何故なのでしょうか。

 

 日本人は本当のことをなかなか言わないし、話しをするのが上手くないから技術的に診ていくという方法を取っているのですかね。日常会話でも、本当のことを言わずに、表面的な発言にすることがあるでしょうし、分かりにくいからですかね。

 

 刺鍼に関しては細い鍼で刺激が少ないような感じですが、全体としては鍼数、ツボ数、時間を加えていくことで、実は刺激量としてはかなり多いのではないでしょうか。一つ一つは強い刺激ではなくても、全体としては緩やかに刺激を加えていくので、「日本鍼灸は温泉と同じ」と考えていいのではないでしょうか。

 

 温泉は刺激が強い物もありますが、湯治と言われるように、一日に何度も入浴し、数日間かけて入浴刺激を加えていくので、入った瞬間は刺激が強くなくても、長く、継続すると身体にかける刺激が多くなります。

 

 治療の考え方は、虚として捉えることが多く、実や虚実混在を重視する考え方は少ないのではないでしょうか。何故、このような考え方が生まれたのか考えてみたのですが、日本人は本質とは、生命とは、ということを重視している傾向があり、論理的というよりは、考えをよりシンプルにまとめていきたいのではないでしょうか。

 

 例えば、和食も様々な技法や味付けがありますが、刺身、出汁などシンプルな物が多く、シンプルが故に合わせたりすることが出来るので、身体に対する考え方もシンプルにしたがる傾向があるのではないでしょうか。

 

4.中医学の特徴は何故生まれたか?

 中医学はもともと今まであった物を一つの形としてまとめるということで作られたものなので、用語や考え方は古いように感じますが、全体の形としては最近出来た考え方になります。

 

 中医学では身体の状態は虚だけではなく、実、虚実混在があるとしているので、日本鍼灸で考えやすい虚とは違いがあります。

 

 日常的に生活していれば、環境の影響を受けるし、飲食によって問題が生じることがあるので、虚だけではなく実があり、実によって身体が壊されてしまったり、身体の力が弱いために実が生じてしまったりという虚実混在があるのが当然だろうという考え方でしょうね。

 

 考え方としては、「今の身体の状態」を判断することを重視していて、そこに至った物も大切だけど、まずは「今を変える」という点に重視しているのではないでしょうか。そういう点から見てみると、やはり現実的な思考がもとに作られたのではないでしょうか。

 

5.まとめ

 日本鍼灸は本質を求め、中国鍼灸である中医学は現実を求めたと考えると、自分の中では少し納得出来た気がします。日本鍼灸では漢方を利用しないですが、中国鍼灸である中医学では漢方も用いていくので、本質も重要ですが今ある症状に対しての考え方も重要なので、現実の状態に合わせた考え方をしていくのではないでしょうか。

 

 さらに違いという点で言えば、日本は技術、中国鍼灸の中医学は理論と分けて考えていくこともできるのではないでしょうか。中国は古代から文章を残す文化でもあるので、文字や理論が重視されていき、日本では理論よりは触る・分かるという点が重視されているのではないでしょうか。

 

 あくまで個人的に思った考え方と違いになるので、これで正解なのかは全く分かりませんが、自分自身の治療に対する考え方もどのようにまとめていくのか参考になりますね。

Pocket