医療現場では、治療者と患者という二者の関係になり、治療者が患者を呼ぶときは、一般的には「患者さん」と呼ぶことが多いのではないかと思いますが、「患者様」と呼ぶところもありますね。どちらの呼び方の方がいいのでしょうか。
1.患者様と呼び始めた背景
医療は上から下へ行う物ではなく、対等な関係として行っていくもので、仕事としてはサービス業に近いところもあるので、「患者」を「お客」として考えた場合、「患者様」と表現した方がいいと考えられますよね。
「患者様」という表現が広がったのは、「国立病院・療養所における医療サービスの質の向上に関する指針」の中で、患者の呼称として「様」を付けるのが望ましいという通達によって全国的に広まったようです。本来の意味としては、丁寧な対応をするためという意味で「さま」を表現で入れたようで、「さん」も使うというものでした。
ただ、医療を提供する側からすると、「患者様」という呼び方に違和感があるという意見もあるので、従来通り「患者」または「患者さん」という呼び方を利用している人も多いようですね。
2.患者様と患者さんはどちらの方がいいのか?
「患者」とは「患った者」という意味があり、その人の状態を表す言葉であり、名前ではありません。名前や人であれば、「さん」や「様」を使うのは当然でしょうが、「患った者」という状態であるので、「患者」という言葉に「さん」や「様」をつけるのは違和感が生じても仕方がないのではないでしょうか
ただ、「患った者」は状態であると同時に、その人という意味も持つことになるので、「さん」を付けるのは心情的には誤ったことではないですし、あった方がいいのではないでしょうか。
「様」という意味を考えてみると、「様」は尊敬を表す言葉になるので、「患った者」を「尊敬する」だと日本語としておかしいですよね。
「様」を利用する言葉としては、「お客様」という表現がありますが、「客」が「たずねて来る人、まねかれた人、旅人」という意味があるので、一時的に関わる人という意味で、丁寧な言葉にするために「お」をつけ、尊敬語として「様」を付けているので、一時的な関係であっても、人は対等であるし、尊敬し敬う対象なので、畏敬の対象ということになりますね。
ただ、「お客様は神様」というのを勘違いして、偉くなってしまう人もいるのは困りものですよね。基本的には人と人との関係ですし、対等だからこそ、相手を尊敬し敬うために、丁寧・尊敬の意味である「お」と「様」を付けている訳ですしね。
「お客様は神様」だという表現は、「神」の前に立つように、神聖にそして、謙虚に全力を出すという意味として使われ、広まった考え方で、さらにクレームを受けると改善点がわかるので、「お客様は神様」というのが広がっている訳ですが、「お客様は神であり、絶対的に正しい」という解釈になってしまうと、もてなす側に対して敬いを忘れ、対等な関係ではなくなってしまうので、問題でもありますね。
こうやって考えていくと、「患った者」に対して、自身の持てる全力を尽くし、誠心誠意をもってあたると考えれば、「様」でもいいような気がしてきますね。
「さん」と「様」で話題になったのは、ある医療従事者の話です。「さん」から「様」に変えたら、一部の患者に態度が横柄になるという変化がみられ、問題になってきたので、「さん」に戻したら元に戻ったという話があります。
「患った者」に対して、「様」はおかしいと言う点と、話していて違和感があるという点、患者さんの態度が変わるという話しを総合すると、「患者様」より「患者さん」の方がいいでしょうね。
3.まとめ
いろいろと調べて考えてみると、「様」と付けるのは人に対してという意味ではよい感じがするのですが、相手側と上下の関係が出来てしまうのでよくないのかなと思います。治療や施術に関しては、身体の状態を把握して、変化を出し、生活指導を行っていく必要がある部分もあるので、対等の関係性の中で、専門知識を提供するというのが通常なので、やっぱり「さん」の方がいいのではないかなと思いますね。
「さん」を「様」に変えたら豹変するという話しは、「スタンフォード監獄実験」の話とも近い物なのかなとも思いました。「スタンフォード監獄実験」は、心理実験の一つで、看守と受刑者に分けたところ、看守側が受刑者にきつくあたるということで、立ち場で人が変わるという説を出した物ですが、実は看守側に受刑者にきつく当るように指示を出していたというのが分かり、ねつ造の心理実験と言われてもいます。
医療系の業界だけではなく、多くの仕事では、上司と部下の状態になりますが、上司という立場になった途端、立ち場が変わって豹変してしまう人は確かにいるので、「さん」と「様」の違いでも態度が変わることがあるのかなと思いました。