鍼灸師は学校で、経絡と関わるツボ、経絡と関わらないツボ、合わせて400ぐらいを勉強します。特に重要なのが、経絡と関わる物で、361ありますが、実際の学校の授業で触ったり、刺したりしていくのは限られた数になっていることが多いのではないでしょうか。
ツボは、指先からお腹など身体全体に存在しているので、全部のツボを刺そうと思っても、位置的に難しいところのものもありますし、危険性が高いところもあるので、一部は使っていかないことが多いです。
鍼灸学校のときは、実技や座学で、このツボの特徴はということで話を聞くことが多いでしょうが、全体の中から学習するのではなく、一部のところのみの学習になってしまうので、全体としての位置関係を理解するのが弱くなってしまいます。
卒業したときでは、訂正してくれることもないので、自分がここだと思ったところを利用していくことが多いですし、経験も積み重なってくるので、場所がずれてしまったままの場合もよくあります。
私自身も卒業して鍼灸をやるようになって、ツボを使って治療していたのですが、しばらくして、これは場所が間違っていないか?と気付くようになり、ツボを探す際には必ず注意することが出てきました。
例えば、鍼灸師であれば誰でも知っていて、一般の人も知っている「脾経の三陰交」というツボがありますが、「三陰交」は脛骨の後ろとなっていますが、三陰交だけ注目していると、何も考えずに取穴していきます。
三陰交は脛骨の後ろを触っていくと、アキレス腱がありますが、アキレス腱の前は腎経が走行しています。腎経ではアキレス腱の前に経絡が走行していますが、「交信」というツボはその少し前方にくるので、腎経の「交信」の場所を意識しないで、「三陰交」を取穴していくと、実は、「交信」付近に「三陰交」を取穴してしまう場合があります。
私が気づいたのは、三陰交と復留や交信を同時に使ってみようかなということから、他のツボとの距離、解剖学的な指標を意識するようになりました。
この気づきによって、いろいろなツボは、他の経絡やツボとの位置関係に気を付けておかないと、大きくずれてしまって、自分のツボの経験や知識は、先人の知識の集積を利用できていないし、取穴をする際にも間違いを犯しやすく、結果を出しにくくしてしまう結果につながるなと思いました。
この反省からいろいろな書籍を見てみると、ツボの個別の記載がある物は多いですが、全体として把握するのは少ない傾向だなと思いました。教科書や参考書は試験を受けるためにあるので、順番や個別の知識を強めていくためには重要ですが、臨床的かどうかを考えていくと、かなり微妙な書籍になってしまいます。
古典文献を見ていくと、順番で書かれているものも多いですが、手や足など、部分や全体としての内容も多いので、臨床で触っていくために、書かれているのかなとも感じます。
鍼灸師の多くの人が、ツボを探す場合は、触ったときの反応を重視する人も多いでしょうが、反応を意識するあまり、他の経絡、ツボとの位置関係を考えなくなってしまうと、どんどんと誤りが拡大してしまって、治療効果が上げにくくなってしまうのではないでしょうか。
資格試験という制度を考えてみると、試験前には合格していくために知識を詰め込んでいるので、知識が多い状態ですが、資格を取得して実務になっていくと、日々使うことは覚えていっても、使わないことは忘れていってしまいます。
ツボ自体は、昔からそうでしょうが、個人がツボ名を意識して使っていくのは、50~100穴ぐらいではないかと考えられるので、他の物はどんどんと忘れていってしまいます。しかも、人は正確に覚えていると思っていても、記憶が若干と変化していってしまうので、勘違いも発生することが多いですから、よく利用している50~100のツボ自体も間違いを生じていってしまっている場合があるのではないでしょうか。
こういった間違いを正すためには、経絡、ツボを意識しながら身体を触っていかないといけないですが、知識の復習を何度も行わないと、どんどんとずれていってしまいます。
ということで、度々、経穴や経絡の資料を見直すことが多いのですが、残念なことにすぐに忘れてしまうので、何度も見ては忘れての繰り返しなので、伸びているのかが自分でも分からなくなってしまっています。