症例10_解説と治療

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 症例10の解説と治療ですが、この症例は脾陽虚と考えがちになりますが、肝うつ気滞による下痢と考えられます。肝気のうっ滞が生じ、脾の働きを低下させてしまっているので、下痢になっています。

1.解説

 下痢が生じた原因を考えてみると、仕事でミスをしてしまった精神的なところから来ているので、肝・心・脾を考えることが必要になります。仕事のミスを考え続けて落込みが酷い状態になっているのであれば、心・脾の問題が生じている可能性がありますが、その場合は、心の病証である不眠が発生をしてくるのですが、睡眠に異常がないところから心ではないと考えられます。

 

 肝は曲直と言われ、のびやかな性質をしていますが、ストレスによってのびやかさが失われてしまうと、気機の阻滞が生じてしまいます。肝の疏泄は脾胃の働きを促進しているのもあり、肝気の失調が生じてしまうと、脾胃の働きを低下させてしまいます。

 

 脾胃の問題が強いようなら、食欲も低下しやすいのですが、それほど低下をしていないのと、肝の問題でも食欲が低下をしやすいので、食欲だけでは鑑別することが難しいです。

 

 食後すぐに下痢になってしまうことから、脾の働きに障害が出ていることも考えられるのですが、一番の原因が精神的ストレスなので、肝気の失調が改善していないので、脾の働きも十分ではないので、食事という脾に負担をかける行為で下痢をしてしまっています。

 

 肝の問題だと考えられるもう一つの理由としては、お腹の脹りは以前からあるものなので、慢性的な腹脹は肝の問題だと考えます。脾の腹脹の場合は、食事という脾に負担をかける状態で発生しやすいので、食後に腹脹となることが多いです。

 

 冷えというと、陽虚を考えるのが多いのですが、ストレスによって肝気のうっ滞が生じると、手足末端まで気血が十分に巡らないので、冷え症が生じてしまいます。肝気のうっ滞が大本なので、温めてもなかなか改善しないことが多く、頑固な冷え症として考えてしまうことがありますが、リラックスしているときなどは冷え症が改善していることが多いので、生活の状態を確認することが大切になります。

 

 下痢の状態もストレスがどうかを判定するためには、仕事中か家のどちらで多いかを尋ねることによっても肝か脾かを考えるきっかけになります。

 

2.治療

 下痢を生じている原因は肝気のうっ滞になり、あまりにもひどい状態だと、下痢が止まらなくなり、トイレから出られなくなることもあります。肝気のうったいを取り除くと、脾に問題を生じている原因は改善されるので、下痢が止まります。

 

 排便に関しては脾についても考えておくことが大切になります。肝気のうっ滞を取り除きやすいのは合谷と太衝という四関穴(しかんけつ)という組み合わせになるので、合谷と太衝に1㎝程度刺入をして気血の巡りをよくすることが必要になります。

 

 気機の阻滞は中焦に生じているので、中焦に働きかける作用の強い中脘を使うと効果的ですが、刺激が強いと気持ち悪さも生じてしまうので、刺入は深くしない方がいいと思うので、切皮でも十分です。

 

 腹部の調子を整えるのには、天枢は効果的なので、天枢に対して鍼を行うのも重要ですが、こういった下痢の方は治療後に一度、停滞しているものが出ていくことが多いので、排便したいという気持ちになることがあります。

 

 その場合は、排便後は落ち着きやすいので、治療後すぐの排便は、悪いことではないと伝えておくことが必要になります。期門や日月を治療で使うと腹脹に対しても効果的なことが多いのですが、刺入は危険を伴うので、お灸の方がいいのですが、火傷というリスクがあります。

 

 台座灸を使うことで火傷をさせないという方法もありますが、軟膏をつけて隔物灸として行う方法も効果的ですが、温かさを感じる程度にしておくのが大切です。

 

 肝気のうっ滞が改善をすると、治療中から冷えが改善されることがあるので、治療中に手足が温まるようであれば、気機のうっ滞が改善したと考えられるので、治療中に手足の冷えを確認すると分かりやすいです。

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