八味地黄丸(はちみじおうがん)

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 精力増強には八味地黄丸と言われていますが、八味地黄丸の働きはどういった物になるのでしょうか。

 八味地黄丸は八味丸とも言われて、腎陽虚に対する処方になります。腎陽虚に対する処方なので、「八綱弁証」では裏虚陽になります。腎陽が不足すると腎水が余ってしまい、水は身体を冷やす働きが強いので、腰部や下肢に冷えが生じてしまいます。

 

 似たような名前の漢方薬に六味丸というのがあるのですが六味丸は、腎陰虚に対する漢方薬になります。六と八という数字の違いで分れるのですが、この数字の意味は含まれている生薬の数の違いです。共通する生薬は地黄(じおう)、山薬(さんやく)、山茱萸(さんしゅゆ)、沢瀉(たくしゃ)、伏苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんひ)になります。

 

 地黄、山茱萸、沢瀉、伏苓、牡丹皮はすぐに目にするものではないですが、山薬はヤマイモ・ナガイモの根と関係をします。ということは、ヤマイモ・ナガイモは滋養強壮作用があると言えるので、ネバネバ系は滋養強壮作用があるというのは漢方としても根拠があるものになります。

 

 共通する生薬は「腎の働き」に対する働きがあるものが多いのですが、八味丸の場合は、これに桂枝と附子が含まれていて、身体を温める作用を加えている状態になります。附子は有名になりましたが、トリカブトの塊根になります。附子は陽虚の状態ではよく用いられる漢方薬の一つで使用量には注意が必要ですが、温補する働きがある生薬の一つになります。

 

 腎陽虚に対する処方になるので、腎の症状と陽虚の症状の時に使っていくことができます。陽虚の症状は冷えを主体とするものが中心になるので、手足の冷え、小便の量と回数が多い、軟便や下痢、精神不振、倦怠感があるときに効果があります。陽虚ということについてはこちらのブログを参考にしてみてください。

東洋医学で考える暑がりと寒がり―陰虚と陽虚

 

 腎は足腰の強さと関係もしやすいので、下半身に力が入らない状態や腰下肢のだるさとも関係が深いです。腎は、排尿調節にも関係をするので排尿障害がある場合には、腎の機能低下が生じていることが多いです。

 

 腎陽の不足が生じているようであれば、命門火衰というのと同じ状態になりますが、名門は腎陽を意味する用語として「中医学」では用いられています。朝型の下痢は腎陽の不足で生じる代表的な症状なので、寝起きで下痢、下痢で目が覚めるというときには、この八味地黄丸が効果を発揮します。

 

 腎の働きは下腹部の力強さとも関係するので、下腹部軟弱がある場合には腎の機能低下が生じていると言えます。下腹部は生殖器とも関係が深い場所になるので、生殖器の異常には腎の機能低下が大きく関係をしていきます。生殖器を働かせるのには精というのも重要なので、精に関するブログとお腹の状態を見る方法に関しては、こちらを参考にしてください。

生殖能力と東洋医学―精と気

腹診―難経系腹診と傷寒論系腹診

 

 陽気の不足は気の不足によっても生じやすいので疲労が続くようであれば、気の不足だけではなく、陽気の不足にもつながってしまいます。あまりにも気・陽気の不足が強くなってしまって冷えが強い場合には、気・陽気の生成と関係をする「脾の働き」も強めないといけないので、他の漢方薬が一緒に処方されることがあります。

 

 腎陽虚では腎の働きの低下だけではなく、冷えも強く生じている状態になるので、鍼灸治療で対応する場合には、腎の原穴である大渓を用いていくのも一つの方法としてあげられるのですが、下腹部の関元や腰部の命門も重要な経穴になります。命門は左右の腎兪の中央にある経穴になるので、腎兪を使うのも効果的なのですが、腎兪は深部に腎臓もあり、肺底が近いのもあるので、刺入を行う場合には注意が必要な経穴になります。

 

 腎兪の外方にある志室も腎の働きを向上させるのにも重要な経穴になるのですが、腎兪よりも肋骨に当たる可能性が高く、刺入には一層の注意が必要な場所になります。志室にお灸を加えると腰部に温かさが生じるだけではなく、腹部全体を温めるような感じも出やすいので消化器系の治療としても志室は効果があると思います。

 

 冷えている状態なので、お灸を用いるのも効果的なのですが、火傷のリスクもあるので、命門や関元には棒灸を20分程度行うのも効果的な方法の一つです。自宅でのセルフケアとしては関元・命門に対してカイロを使うのもいいのですが、低温火傷には注意が必要な方法になります。参考になるブログを下記に載せておきます。

棒灸の使い方と効果

お灸で火傷をさせない方法

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