漢方薬の中で非常に代表的なものに補中益気湯があります。補中益気湯は医王湯(いおうとう)という別名があります。
補中益気湯は李東垣(りとうえん:1180~1251年)によって作られた漢方薬と言われていて、東洋医学の考えからの治療だけではなく、現在でも幅広く使われている漢方薬になります。
慢性疾患、術後、出産後など身体の持っている力が低下をし過ぎてしまったときに用いられることが多いです。高齢者でも疲労しやすい人が飲んでいることがありますね。補中は中焦を補うという意味で、中焦は脾胃と関係をするので脾胃に対する治療だと言うことが分かります。益気は気を増やすという意味ですね。
李東垣は金元四大家(きんげんよんたいか)の一人として言われていて、現在でも重要視される人物の一人ですね。補中益気湯を作った時代は戦乱も続いていたので、身体が疲労しきっていて、感染症にも多くかかったようです。李東垣はこの状況を打破するためには、人体の生命維持に重要な脾胃を治療することが大切だと考えました。脾胃に関してはこちらのブログを参考にしてください。
基本的な病能は脾気虚証と考えることが出来るので、脾の治療と気虚に対しての治療を行う漢方薬だと考えることができますね。気虚というのは気が不足した状態のことで、気血津液弁証の考え方になります。気血津液弁証に関してはこちらを参考にしてください。
補中益気湯の八綱弁証は裏実平と考えることが出来るのですが、気が不足をしてしまい、気の温める働きである温煦作用が低下をした状態だったら、裏虚寒証も対応になります。補中益気湯が出来た背景は、感染症による熱病に対しての治療としても使っていたので、裏虚熱証に対しても効果があると言えてしまいます。八綱弁証や気の作用に関してはこちらのブログを参考にしてください。
脾の働きは血が漏れないようにする働きや、内臓の位置調節を行っているので、脾の働きが低下をしてしまうと、下血などの出血傾向や胃下垂、子宮脱、脱肛が発生してしまうので、その場合には補中益気湯が使えることになります。
補中益気湯に多く含まれる生薬は黄耆(おうぎ)になります。黄耆は身体の気を強める働きがあり、脾だけではなく肺にも作用することで、水の排出にも効果があると考えられています。
人参・白朮(びゃくじゅつ)・炙甘草(しゃかんぞう)・升麻(しょうま)は黄耆を助けて、脾胃を強める働きがあるので、補中益気湯という名前に負けないように脾胃に対する働きかけが強くなっています。
陳皮(ちんぴ)は脾胃の働きを強めると同時に、身体の中に停滞してしまう痰湿の除去にも効果があります。
当帰(とうき)は血に対する治療薬ですが、血を補うことによって、気を栄養することが出来るので、気の生成と充実に必要になります。肝に対しての働きもあるので、肝気を養うことによって、脾胃の運化を助ける働きもあると言えますね。
脾胃に対する漢方薬なので、とにかく徹底的に脾胃の働きをするにはどうしたらいいのかを考えている漢方薬の処方だと思います。
補中益気湯と同じような効果を鍼灸治療で出そうとするのであれば、臍周りのお腹の張りと胃の六つ灸になるのでしょうか。
例えば、補中益気湯の鍼治療と考えると、中脘、天枢、気海に膈兪、肝兪、脾兪という6つのツボで補中益気が出来ると言えますね。他には、足三里・三陰交を使うとよりいいのではないかと思います。
お腹の調子がいいと体調がよくなることは多いので、どんな場合でも使いやすいのが補中益気湯になるのではないでしょうかね。
漢方薬の中には甘草(かんぞう)が含まれる物が多く、甘草を取り過ぎてしまうと偽性アルドステロン症を発症してしまうので注意が必要ですね。高ナトリウム血症、低カリウム血症、浮腫、高血圧などが生じてしまうことがあります。
方剤によっても含まれてくるものが変わることは漢方ではよくあるのですが、補中益気湯にも甘草が含まれることがあるので注意が必要です。
漢方薬では他にも柴胡は肝炎がある人に使ってしまうと間質性肺炎を発生してしまうことがあるので、病能をしっかりと把握してからでないと危険になります。