『医薬品クライシス』を読んでみました

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 東洋医学を行っていると、自然療法がいいと考える人に会うことが多く、薬を否定するような方もいますが、自分は薬のことを知っているのかと思い、医薬品についての書籍を探していたら、『医薬品クライシス』に出会いました。

 『医薬品クライシス』を書いた著者は医薬品メーカーの研究者として新薬開発に携わっていた経験を生かして、医薬品についての話を分かりやすくまとめられています。非常に読みやすくて、1時間ぐらいでざっと読めました。

『医薬品クライシス―78兆円市場の激震 (新潮新書)』

 

 書籍の中で、創薬に関しての話が出てくるのですが、“創薬はギャンブル”という定義をしています。理由としては、人間の身体というのは完全に解明をされている訳ではないので、実際に身体に医薬品が入った場合は、どういった働きをするのかが分からないというのが一つの理由です。例えば、勃起不全で使われているバイアグラは、狭心症の薬として作られたのに、勃起障害に効果があるというので、勃起不全の薬になったのは有名な話ですよね。こうやって考えると現代医学に限らず、東洋医学も含めて医療は人体実験の歴史ですね。過去のブログでも同じようなことは書いています。

「医療は人体実験の積み重ね」

 

 書籍の中ではこれ以外にも、様々な理由から新しい薬を作る大変さが書かれています。薬は世界中で作られていると思っていたのですが、実際に創薬を出来るのは日本を含めて十カ国に満たないというのは驚きましたね。新薬を創れるのは、先進諸国に限られていますが、研究費も莫大になるので、当然ともいえるのかもしれないですね。

 

 医薬品の開発に関しては、私は素人なので、いろいろな情報を見てみると、一つの医薬品が出来るまでは500~1000億円かかるようですし、研究期間は9~17年ぐらいと言われています。そう考えると、創薬の仕事に携わるとすると、40年の間で多くても4つ、少ないと2つぐらいしか作れないと考えるとすごいことですね。しかも成功率は3万分の1と言われるのですから、普通のサラリーマンとして働いた中で創薬に携われないまま定年という可能性も高いですね。凄い仕事だなと思いますね。

 

 薬が出来ないと、企業としては利益にならないので、薬が出来るまで給料を払い続けて、設備を維持し続け、研究をし続けないといけないので、お金が莫大にかかるのも納得できますね。

 

 薬には副作用があるというのはよく知られた話ですが、たまたま持病や体調不良で発生した症状は研究段階であれば、副作用として記載をしないといけないというのも初めて知ったので、副作用を把握するのも本当に大変なことなのだなと思います。もちろん、薬の副作用ではないという“否定”は出来ないので、研究として用いたのであれば、副作用情報としては必要になりますよね。

 

 医薬品は販売をされてからも、副作用がないかをチェックしていて、副作用や注意が発生した場合には、すぐに情報が伝達される制度になっています。そういった情報を集めて、広げていく活動は厚生労働省が主体として行っているのですが、こちらのサイトで情報がまとまっています。

独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

 

 薬に対して、鍼灸師や一般の人でも知っておかなければいけないことは水・お湯で飲むということですが、グレープフルーツは薬の効果を悪くしたり、良くし過ぎたりするので、薬を飲む習慣がある人では、日常生活の中でグレープフルーツを食べたり、グレープフルーツジュースを飲んだりするのは注意をした方がいいということですね。

 

 医薬品自体は、本質的に病気を治すと言う訳ではないですが、身体の状態や病気によっては非常に大切になってくるものなので、多くの人が知っておく方がいいですね。現代医学の好き・嫌いは個人の嗜好とも言えるのでしょうが、無知によって病気が拡散または悪化をしてしまったら悲惨な状況も生まれてしまいます。

 

 エイズは現在では薬で管理を出来るものですが、南アフリカではエイズが蔓延した時期がありますが、薬の副作用を心配するあまり、薬を使わなかったおかげで多くの方が亡くなってしまったという事実があると書かれています。

 

 どういった薬でも効果だけではなく副作用もありますが、何が本当に重要なのかを考えていかないといけないですね。日本で多く使われているタミフルに関しても書かれていますが、国によっても使い方が違うので数値をしっかりと見て、客観的にはどうなのかを考える大切さを主張されています。

 

 医薬品を使うことによって、耐性ウイルスが発生するというのは有名な話ですが、著者も危惧をしていますが、薬を使うことで防げるものはあるので、大切にするものは何かを考えていくことは大切だなと思いました。

 

 メディアに流れてくるニュースは真実であると同時に、一面しか見ていない場合があることも多いので、自分で情報を集めていくことが大切だと再確認できましたね。

 

 一般の人に取ってみれば、身体や医薬品について調べるというのは非常に困難なことにもなるので、東洋医学を学んでいる鍼灸師は東洋医学を使いながら、中庸の姿勢を保って、情報を伝えたり、説明をしてあげたりすることが患者さんに取って大切なことだと思います。

 

 医薬品に関しては勉強するのも大変ですし、客観的な視点で大まかに全体像を把握するのに非常にいい書籍だと思いますし、患者さんにも勧められる書籍だと思います。

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