東洋医学の診察では身体の状態を細かく聞くことが必要で、二便についても尋ねていくことになりますが、どういったことを考えていけるのかをまとめてみたいと思います。
身体の不調は睡眠がしっかり取れているか、排泄がスムーズかについては尋ねやすいですが、答えが反ってきたとして、東洋医学的に考えることが出来るかが重要なので、詳細に問診を取らない人もいるのではないでしょうか。
大便が出ている、ゆるい、下痢しているというのは正常なときでも発生しやすいので、どういう状況にあるのか、どういう状況になりやすいのかを知るだけでも弁証を出す時に役立つことになるので、覚えて理解しておくといいでしょうね。
1.便の生成
便の生成は、飲食物の残りかす、体内にある病理産物によって作られるので、体内の気血循環がよくなければ便の形成に異常が生じることになります。
飲食は中焦の脾胃と関係しやすく、脾胃の働きが正常であれば、飲食物を消化・吸収し、便に変化をさせていくことができます。
脾は上昇の性質があり、胃は下降の性質があるので、脾胃が正常であれば、飲食物は中焦に一定時間停滞することが出来るので、その間に飲食物の消化・吸収を行っていくことができます。
脾の上昇の働きが低下してしまえば、中焦では胃の下降の性質が強くなるので、下痢が生じ、胃の下降の働きが低下してしまえば、中焦では脾の上昇の性質が強くなるので、便秘が生じやすくなります。
肝は脾胃の調節を行っているので、肝の働きが失調して、脾や胃に影響を与えてしまうと、下痢・便秘が生じることがあります。肺は下降の性質を持ち、大腸と表裏関係であり、経絡の走行で胃と関係していることから、胃と強調して下降させる性質がありますが、肺に問題が生じると、胃にも影響が及び、便秘が発生しやすくなります。
便を形成するのは、気化の働きが必要なので、気の力が必要で、便を形成する栄養は血にあるので、便の形成には気血が重要になります。津液は、便を輸送するために、潤滑油の働きがあるので、津液が不足すると、潤滑油が不足し、排泄しにくくなります。
腎は大便口でもある二陰と関係しやすいので、排泄の障害は腎の働きが低下した場合に生じることがあります。人が生まれてすぐや亡くなる前に排泄調節が出来なくなるのは、気血津液の問題もありますが、腎の機能が十分でないことによって生じると考えることができます。
2.下痢
下痢が生じている場合は、脾の働きが失調しているのではないかと考えていかなければいけないので、脾の働きが低下をしている状態である気陥証も下痢を生じやすい傾向があります。
気血津液弁証では、痰湿は湿邪の重濁・下注性によって、飲食物が下へ押し下げられる傾向があるので、軟便や下痢が生じやすくなります。陽虚は冷えと関係しますが、冷えは陰邪でもあり上昇する働きを損傷してしまうので、脾陽や腎陽の障害を起こしやすくなるので下痢が生じることになります。
代表的な物として五更泄瀉があり、五更泄瀉は五更泄・腎泄という言葉が使われることがあります。腎泄という言葉は、『難経』五十七難に出てきますが、本文を細かく見ると分かりにくくなってしまうので、どんな状態かだけ記載しておきます。
- 腎泄:未消化便
- 脾泄:嘔吐・下痢
- 大腸泄:食べると下痢
- 小腸泄:膿血便、下腹部痛
- 大瘕泄:裏急後重
3.便秘
便秘は胃の下降する働きの低下、肺の下降する働きの低下によって生じやすく、腎が二陰を開けなくなってしまった場合にも生じることになりますが。便秘は典型的な状態があるので、分類が言われていきます。
1)熱秘
熱秘は身体に熱が阻滞してしまうことで、津液を損傷してしまい、大便が移動する潤滑油を失ってしまいます。昇降の働きでは、熱は炎上性があるので、下降させる働きを阻害してしまうことになります。
便の状態は、潤滑がなく、下降する働きが障害されているので、便が体内に停滞している時間がながく、硬く乾燥している状態になります。と言っても、排泄後の便を見ることはないでしょうから、便秘で硬い便が出るというときには熱秘ではないかと考えてもいいでしょうね。
2)気秘
気秘は肝鬱気滞によって生じやすい便秘なので、肝鬱気滞によって胃の働きを障害した肝胃不和と考えていくことができます。気だけの話しで考えていくと、大便を排泄する推動の低下によって便がなかなか出ることができない状態です。
気滞は、一定のところに阻滞する傾向がありますが、渋滞のように、場所も移動していくことがあるので、便の形は不安定になりやすいです。
3)虚秘
虚秘は、気虚・血虚によって生じやすい便秘で、排泄する力を失ってしまった状態なので、高齢な方で便秘が多いのは、気血の虚によって虚秘が生じているためになります。
気虚の場合は、排泄するため力がないので、便が最初は硬く停滞している傾向があるのですが、身体の働きとしては、気機が弱くなっているので、便をしっかりと形成することができないので、ゆるい便になりやすい傾向があります。
血虚の場合は、便を滋養する働きが低下してしまっているので、一本の棒のような形を形成することが出来ずに、兎糞のような状態になってしまいます。便は気虚とは違い、硬い傾向があるので、硬い兎糞とも言えます。
4)冷秘
冷秘は、陽虚によって生じやすい便秘で、脾陽・腎陽の働きが失調することによって昇らせる働きが低下してしまうので、下がりやすい傾向があります。通常は下痢になりやすいのが陽虚なのですが、冷えは気血の阻滞も発生させ、身体の動きを低下させてしまうので、排便する力が停滞してしまえば便秘の状態になります。
便の形状は中焦で停滞させることができずに、下へ降りてきてしまっているので、ゆるくなってしまいやすいです。
4.便のことを知る
身体は未知な部分が多く、食べた物がどうやって処理をされているのかということは、体調を知る上で大切なことなので、東洋医学の問診においては重要な物になります。最初の内は、患者さんの方から話してくれるのは少ないでしょうが、排泄の調子はいかがですかという質問を日々、重ね、それについて説明や治療をしていくことで、患者さんの方が重要な情報というのを理解して話してくれるようになることが多いです。
話したがりの人であれば、いろいろと話してくれるでしょうが、一般の人からしてみれば、何を話していいのか分からないので、東洋医学に携わる側が細かく質問をして、説明してあげることが重要だと思います。
5.まとめ
以前にも便についての話しを書いていますが、再度、排泄について勉強をしたら、こういう考えかたもいいのではないかという疑問が生じたので、再度、視点を少し変えながらまとめてみました。
問診で聞ける情報は非常に多いのですが、こちらの頭が整理されていないと、せっかくの情報を生かすことができないので、文章として整理してみました。