期門(きもん)

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 期門は、旧教科書では乳頭線上で第9肋軟骨付着部下際であり、新教科書などでは乳頭線上で第6肋間になるので、新旧の教科書で取穴部位が違う経穴になります。

1.期門の名前

 期門の期「期」は、「くぎり」という意味があり、経絡が肺経から始まり、肝経から肺経に交わるということで、気血の循環のくぎりという意味もあるようですね。「門」は出入り口という意味があるので、気血の循環という意味もありますが、肋間なので隙間という考え方も出来そうですね。

 

 期門の名前から考えると、第6肋間の方がよさそうですが、経絡の循環という考え方であれば、肺経は中焦から始まるので、中焦に近づくという意味では第9肋骨付着部下際の方がいいような気がします。

 

2.期門の位置の違いについて

 今はネットという便利な物があるので、調べるのも助かります。ということで、期門の位置の違いについては福本宗玄という方の「経穴の部位的考察(第2報)―期門穴の部位について」というのが参考になり、私なりに要約したのが以下の内容です。

 

「経穴の部位的考察(第2報)―期門穴の部位について」

明治時代以前は現在の期門の位置であり、明治期以降になると、第9肋軟骨付着部下際の乳頭線上になっているようであり、初めって文献として出てきているのは松本四郎平(まつもとしろへい)著の『鍼灸経穴学』(1911年)だが、根拠についての説明がないようである。

 

 古典文献では「乳下第二肋端、不要傍各一寸五分」と書かれているので、何故、変化させたのでしょうかね。『鍼灸経穴学』は解剖学的な記載を含めた書籍であり、新しい物が好きな方達が、古典を参照にするのではなく、この書籍を使用することになり、それが旧教科書に載せられていたのでしょうかね。

 

 長い歴史とは言えないですが、明治期から新教科書が利用されるまでは、第9肋間で治療をしていたでしょうし、肝経と関係する新しい経穴として考えることが出来るので、発見できたと思えばラッキーなのではないでしょうか。

 

 肝経が下肢から上がってきて、章門から直接、期門に繋がるよりは、第9肋間の付近を走行すると、肝と関係しやすい胸脇部を巡ることになるので、流注として考えれば、流注の途中で肝経が曲がるところだったと思うのも良さそうですね。

 

3.期門と治療

 期門は肝の募穴であり、足太陰・厥陰、陰維が交わる場所になるので、治療範囲がひじょうに 広く、様々な状態に使用していくことができますが、肋間にあるので、直刺で刺入した場合は、肺に向ってしまうので危険性も高い経穴になります。

 

 用いていく場合には、斜刺でも肺に向ってしまうので、水平刺で刺入するのがいいのですが、水平刺が使いこなせないと危険性が高まるので、刺入技術が重要になります。

 

 傷寒論には期門についての記載があります。

 

『傷寒論』太陽病中

「傷寒、腹滿、譫語、寸口脈浮而緊、此肝乗脾也、名曰縦。刺期門。」

 

 傷寒の病から始まっていますが、肝脾の問題がある場合に期門を使用することができるので、面白そうだなと思いました。ただ、期門は第6肋間で取穴する場合は、胸に近いので、女性には使いにくそうですね。

 

 婦人科系疾患、食事の問題などで使用できるので、非常に応用範囲が広いですが、気血の循環にも関係しやすいので、治療効果が高いのでしょうね。

 

 私は期門に限らず、手技では肋骨や肋間の治療をよくしますが、肋骨部の筋肉に対してアプローチすると、身体が大きく変化しやすいので、有効な場所だと思います。

 

 手技で肋間を用いていく場合は、身体に対して垂直に押すと、肋骨に負荷がかかり、高齢な人では骨折するリスクが高くなるので、肋間に指を入れてこするように行うことも多いです。例えば、第5肋間に示指、第6肋間に中指、第7肋間に薬指を沿わせておいて、肋間をこするようにしています。

 

 前側は異性だとやりにくいので、背部で使用していくことが多いですね。

 

 考えてみれば、身体の筋肉でも肋骨のある筋肉はトレーニングもストレッチもできないので、刺激を入れたら、反応しやすいのかもしれないですね。

 

 お腹の硬結がなかなか変化しないときや、症状が大きく変わらないときに期門を取り入れると、身体が大きく変化することもあり、使ってみて、肝脾で考えた方がよかったのだなと気づく時は多いですね。

 

4.まとめ

 期門は治療効果が高いところだと思いますが、刺入する上ではリスクも高い場所になるので、狙い通りに鍼を扱えて、水平刺ができるようになってから使用するのがいいと思いますよ。

 

 私も水平刺が思い通りに扱えるようになってから使用することが増えてきた経穴なので、今後も使っていきたいと思っています。

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