背部兪穴は臓腑に繋がる経穴であり、東洋医学の治療としては重要な場所になりますが、胸郭と関わることが多いために、刺入していくにはリスクが高い場所になります。
背部兪穴は直刺で刺入していけば、胸郭内に鍼が刺入していってしまうリスクがあるので、直刺ではなく斜刺で行うのが当然と聞くことが多いでしょうが、斜刺でも角度と方向によっては危険になり、体動によって鍼が入っていってしまうリスクも考えられます。
水平刺で行っていけば、鍼が入っていったとしても皮下に刺入されていくだけなので、背部兪穴は水平刺で刺入していくのがお勧めです。
経絡が流れている深さを考えていって、体内のどこを流れていると考え、鍼はそのために刺入するという考え方もいいですが、経絡は孫絡に分かれて体表にも走行していると考えることが出来るので、直接的に刺入していかなくても、刺激が中に浸透していくと考えることも出来るので、直刺・斜刺・水平刺という刺し方を考慮しなくてもいいのではないですかね。
いろいろと考えることは自由ですが、治療においてはリスクを出来るだけ侵さずに、効果は最大限にするのがいいでしょうから、鍼の刺入は出来るだけリスクを軽減した方がいいですしね。
ただ、水平刺は刺入技術が必要なので、直刺・斜刺しか刺入していない人は水平刺が出来るようになるまでは、かなりの練習時間が必要になります。一度、出来るようになってしまって、皮下に入っているという刺入感覚を手に入れてしまうと簡単な刺鍼ですよ。
細い鍼だと、刺入している間に硬いところに当ってしまうとすぐに曲がってしまいますし、押手の圧加減の影響も受けやすいので、鍼先が上下にぶれやすいので、5番以上の鍼を利用していく方が、皮下に入る感覚を理解しやすいと思います。
私も水平刺は苦手なところがあったのですが、太目の鍼で水平刺を行うようになってからは、刺入しやすいと感じることが多くなり、細い鍼でも再現できるようになりました。
水平刺でも鍼通電療法を行うと、直刺や斜刺に比べると動きは今一つだと感じることもありますが、筋肉の動きを出すこともできるので、背部での鍼通電療法も最近は水平刺で行うことが多くなりました。
一般家庭などでも利用できるEMS治療器(電気的筋肉刺激:低周波治療器)は体表から電気刺激を加えることで、筋肉を動かして治療効果を狙うものなので、鍼を水平刺に入れたとしても、EMS治療器と同様に身体に電気を加えることができますし、筋肉は電気刺激で動いているので、電気を加えれば、筋肉の躍動が出るのは当たり前ですね。
水平刺から少しだけ筋肉に刺さる程度の斜刺にするとしっかりと動かすことが出来るので、筋肉をしっかりと狙いたいときには、完全な水平刺より鍼先を立てるようにしています。
水平刺が行えるようになると危険域でも刺入をしていきやすくなるので、鍼灸師であれば身に付けておきたい技術だと思いますよ。以前に書いたブログもあるので参考にしてみて下さい。
水平刺は皮下に刺入をしていくのですが、皮下にも神経が走行しているので、刺入の痛みは出ます。皮膚と組織の間であれば鍼は刺入しやすいですが、鍼先が表層に浮いて来てしまうと、皮下にまた鍼が刺さっていくことになり、体内から体表への逆切皮の状態になってしまうので、浅くなってくると、激痛が生じてしまう場合があるので、刺さっていかないなと思ったら刺入は止めておいた方がいいです。
直刺で刺入していく場合でも、抵抗を強く感じたら、強い響きが生じたり、痛みを生じたりしやすいですし、刺入は丁寧に行い、抵抗を感じたら鍼を止めるようにした方がいいですね。
水平刺で刺入をしているときに、刺さっている鍼が体表から触れられると安全かどうかの確認もしやすいですね。
直刺や斜刺では、刺さっている中のところが分からないので、体内の構造物に当って鍼先が狙ったところにいかないかもしれない可能性がありますが、水平刺は刺さっている先を確認することが出来るので、刺さった先がどこにあるかという不安がなくなりますね。
運動器疾患でも動きが悪いところに水平刺を行うと改善することも多いので、痛み、臓腑の問題だけではなく、幅広く行っていくことができます。出来るようになるまでは、少し時間がかかりますが、諦めずに出来るようになってもらいたいと思います。