鍼灸は鍼灸師の子ども、鍼灸師と仲が良いという人以外は、学校に入ってから初めて専門的に学ぶことになりますし、東洋医学についても今まで知っている知識と大きく違うので、何がわからないのかわからないですし、何から勉強していいのか悩む人が多いのではないでしょうか。
私自身も鍼灸学校に入って勉強しましたが、最初は何を言っているのかさっぱりわからず、とにかく試験だけをクリヤーしていったのですが、結局、何が何だかわからないので、いろいろな本を読み、セミナーにも参加して理解を深めていきました。いろいろと回り道もしましたが、初心者の頃に読んでおけばよかったなという本をまとめておきます。
東洋医学の知識は変わっていくものではないので、新しい書籍がいいかというとそういう訳でもなく、自分が読みやすく、理解しやすいものがいいですね。書籍を選ぶ際には、何を根拠に書いてあるのか考える必要もあります。例えば、学校の教科書は中医学がベースになるので、中医学の内容と大きく違う物は教科書の内容と大きく変わってしまうので、理解しにくくなってしまいます。
1.鍼灸や東洋医学を知るための書籍
鍼灸や東洋医学を知るためには、全体を何となく知るということが大切になってくるので、一つの物に特化しているより、いろいろな内容が載っている方がイメージをつかみやすいです。
オススメの書籍としては、『鍼灸の挑戦』と『ツボに訊け!』です。『鍼灸の挑戦』は日本で鍼灸をやられている有名な人を尋ねて取材した内容で、新聞で連載していたものなので非常に読みやすいです。『ツボに訊け!』は鍼灸師の治療を一般の人が受けに行く覆面調査の話もありますが、専門的な内容にも触れているので初心者にはこの2冊がお勧めですね。
『鍼灸の挑戦―自然治癒力を生かす (岩波新書)』
『ツボに訊け!―鍼灸の底力 (ちくま新書)』
漫画の方が読みやすい方は、『漫画ハリ入門』や『素直なカラダ』もオススメですね。『漫画ハリ入門』は経絡治療という治療のやり方に沿った話しですが、鍼って何だろうというのを知るには非常にいいですね。『素直なカラダ』は東洋医学の考え方の治療ってこんな感じなのだなと知るのにいい書籍ですね。
『漫画ハリ入門―楽しくわかる経絡治療』
『素直なカラダ (モーニング KC)』
2.東洋医学の歴史を学べる書籍
東洋医学は昔から行われているので、自分が悩んだときには、過去の時代で一度解決したことがある悩みの場合があるので、歴史を学ぶことで、理解が深まるだけではなく、疑問が解消できることがあります。古典と言われる書籍はいろいろありますし、原文であれば中国のサイトで見られるので、特徴的な物だけを紹介しておきます。
まずは東洋医学の重要な古典になるのが、『黄帝内経』なので、『黄帝内経霊枢』と『黄帝内経素問』は基本ですね。ただ、原文を書き下しして、現代語訳にしたものなので、慣れていないと非常に読みにくいと思います。私は昔に読みましたが、読みながら寝てばかりでした。
『黄帝内経霊枢―現代語訳 (上巻)』
『黄帝内経素問 上巻―現代語訳』
古典を読んでいくのであれば、漢文の読み方を知らないと分からないので、医学古典を読むための書籍が『医古文の基礎』ですが、中国の書籍を翻訳したものです。『漢文で読む『霊枢』』も古典を読むための漢文のついての話になるので、白文というそのままの文章を読むためにはこの2冊は押さえておきたいところですね。
『医古文の基礎』
『漢文で読む『霊枢』 基礎から応用まで 改訂増補版』
『難経』は日本の鍼灸の中において重要視されるので、一度は読んでおいてもいいのではないでしょうか。『難経』に関する書籍は沢山ありますが、個人的には『難経真義』が気に入っています。『難経真義』は随処のコラムがあるのですが、なるほどなと思うことが多いですね。この方の書籍は何冊が出ていますが、治療の考え方は経絡治療で特殊な鍼の扱い方をしていますし、面白いなと感じる書籍は多いですね。
『難経真義』
経絡治療は昭和に作られた治療法で、広く普及している物ですが、その経絡治療の成立ちを書いてある『昭和鍼灸の歳月』は小説のようで面白いですよ。この方が書かれている書籍には、『鍼灸老舗の人々』というのもあるので、合わせて読むと、鍼灸がどのように伝わってきたのかが分かります。
『昭和鍼灸の歳月―経絡治療への道』
『鍼灸老舗の人々』
3.東洋医学の基本を理解する書籍
東洋医学を理解するための書籍はいろいろと出ていますが、知識的には中医学が全体としてまとまっているので、中医学ベースで理解して、その他の知識を付けたしていくのがいいと思いますよ。そう考えると、現在、教科書として使われている『新版東洋医学概論』で十分かなと思います。
『新版 東洋医学概論』
教科書だと大きくて読むのが大変な場合は『中医学の仕組みがわかる基礎講義』がいいですよ。タイトルが中医学なので、教科書や東洋医学と違うのではないかと思う人もいるかもしれませんが、持ち運びやすいサイズなので、卒業してからも使いやすいでしょうね。
『中医学の仕組みがわかる基礎講義』
東洋医学の基礎となる考え方であれば、『東洋医学講座』シリーズがいいのですが、高いのと何冊も必要になるので、東洋医学の考え方という点では第1巻だけでもいいのかなと思います。
『東洋医学講座 第1巻 基礎編』
診察の仕方も独特で分かりにくいですしイメージもしにくいので、脈診と舌診が『脈診』と『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』が分かりやすいですね。舌診は印刷で色が変わったりしていて少し見にくい物があるので『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』であれば、書籍だけではなく、CD-ROMがついていて、診断の練習にもなるのでオススメですね。
『脈診 ―基礎知識と実践ガイド―』
『CDーROMでマスターする舌診の基礎』
4.東洋医学の疑問に対する書籍
東洋医学は何故、その用語を使っていくのかという基本的な疑問が生じることがありますが、その答えとなるとなかなかないので、『鍼灸学釈難』と『針師のお守り』がオススメですね。『鍼灸学釈難』は東洋医学でよくある疑問に対する答えとして教科書のようになっていて、『針師のお守り』は著者が疑問に思ったことを文献で調べ調査した内容をまとめてあり、読みやすく、続編もあります。
『鍼灸学釈難』
『針師のお守り―針灸よもやま話 (中医臨床新書)』
5.ツボに関する書籍
ツボに関しては以前のブログでも紹介していますが、『ツボ単』はコンパクトで情報が多く、学生中から卒業後も使えるのでオススメですね。
『ツボ単―経穴取穴法・経穴名由来解説』
『ツボ単』で東洋医学・現代医学がまとまっていますが、さらに現代医学的な解剖学を知りたいというのであれば『鍼灸師・柔道整復師のための局所解剖カラーアトラス』がオススメです。
『鍼灸師・柔道整復師のための局所解剖カラーアトラス』
『ツボ単』の治療に関する話は中医学がベースとなっているので、中国の教科書の翻訳版である『腧穴学』もいいですね。これは全訳シリーズとして他の書籍も出ているので、中医学の学習をしたいという人は揃えてみるのもいいでしょうね。
『兪穴学 (ゆけつがく)』
『臓腑経絡学』は中医学の理論を利用している北辰会の書籍ですが、経絡と臓腑の知識が合わさって書かれているので、経絡を勉強しながら臓腑を理解できるので、イメージが広がるのでオススメですね。
『臓腑経絡学』
6.鍼灸の治療法に関する書籍
治療法に関する書籍は、日本鍼灸としては無いので、どこかの流派に所属をすれば、そのやり方になりますが、それ以外の場合は、各流派の書籍を参考にしながら、自分なりの治療を考えていくことになりますね。ということで、治療の参考になりやすく、面白いと思うものを独断と偏見であげておきます。
治療に関する考え方としては「澤田流」は非常に面白いですし、書籍もまとまっているので、澤田流の教科書とも言える『鍼灸治療基礎学』はいいですね。澤田流に関してはその他にも書籍が何冊もあるので、興味が出てきたら読むのもいいですね。
『鍼灸治療基礎学―十四経絡図譜解説』
治療法と関係している物で面白いと思うのは長野式と言われる治療法の書籍で、『鍼灸臨床30年の軌跡』と『鍼灸臨床新治療法の探究』があります。東洋医学と現代医学の考え方を合わせた治療とも言えるので、興味を持つ方も多いですね。
『鍼灸臨床わが30年の軌跡―三十万症例を基盤とした東西両医学融合への試み』
『鍼灸臨床新治療法の探究』
『ビジュアルでわかる九鍼実技解説』は特殊な鍼の使い方なども載せられているので、治療効果をもう少し伸ばそうというときには、道具を変えてみると効果が出ることもあるので、見ておくといいですよ。似たような物だと『特殊鍼法テキスト』があり、こちらは道具だけではなく、様々な治療法がコンパクトに沢山載せられているので、必読ですね。特殊なものとしては刺絡療法もあるので、『新版刺絡療法マニュアル』も手元に欲しい書籍です。「刺絡と瀉血の違い」に関しては過去のブログに書いてあります。
『ビジュアルでわかる九鍼実技解説 ~九鍼の歴史から治療の実際まで~』
『特殊鍼灸テキスト』
『新版刺絡鍼法マニュアル』
経穴の書籍を見るといろいろな効果などが載せられているのですが、『経穴解説』は北辰会の書籍ですが、経穴の使い方や考え方としては面白いのではないでしょうか。
『藤本蓮風 経穴解説 増補改訂新装版』
経絡治療の教科書としては、『日本鍼灸医学 経絡治療』の基礎編と臨床編がありますが、こちらは学会から直接買うようですね。私は全部をしっかりと読んだわけではないですが、経絡治療の考えはいろいろなところとも繋がるのであるといいのではないでしょうか。
中医学の鍼灸のやり方であれば、『針灸学』のシリーズもいいですね。基礎編、経穴編、臨床編、手技編があります。日本の教科書で言えば、基礎編が東洋医学概論、経穴編が経穴の教科書プラス治療効果について、臨床編が東洋医学臨床論ですかね。
『針灸学 基礎篇』
7.鍼灸のやり方についての書籍
鍼や灸の扱い方は治療とも関係するので、治療法の書籍の中にもあるのですが、独特なものだと『改訂2版刺鍼基本テクニックのマスター教本』、『鍼の刺し方経穴の使い方鍼の刺し方』があります。前者は鍼の刺し方の理論で、後者はツボにどうやって鍼を刺入していくかという書籍なので、ツボに対する刺し方を考えるのにいいですね。
『改訂2版 刺鍼基本テクニックのマスター教本~木下伸一から学んだ師弟教育~』
『経穴の使い方鍼の刺し方―上地先生の実戦鍼灸学』
鍼管の使い方などは、杉山真伝流の中に多く記載されているようで、杉山真伝流の解説書と言える『杉山真伝流臨床指南』も面白いですね。
『杉山真伝流臨床指南』
お灸のやりかたについては、他の書籍の中にもありますが、最近はお灸に関する書籍も出てきているので、1冊は手元に置いておくのもいいのではないでしょうか。
『温灸読本』
8.その他
鍼灸に限らず、東洋医学の書籍はいろいろな物が出ているので、自分が興味を持って調べた中で気になった本を読んでいくようにすると、いろいろな知識が身に付き、今まで分からなかったことも理解できるようになるので、多面的な読書も非常に効果的ですね。
鍼灸に関わる書籍であれば、流派や技術、古典に分類することが出来ない書籍で、『閃く経絡』と『刺鍼事故』はオススメになります。『閃く経絡』は某雑誌で特集が組まれ、読んだ方がいいという状況になっていたので読まれた方や気になっている方はいるのではないでしょうか。ちなみに出版しているのは某雑誌の会社ですね。
『閃く経絡』はどこまでが本当か分かりませんが、海外で有名な書籍ということで、現代医学と東洋医学の融合の理論として書かれています。東洋医学の考え方をホルモン、解剖学、発生学から説明しているので、かなり独自性が強い書籍だと思いますよ。海外の事例ということで、救急で鍼灸・指圧が使われている話も出てくるので、海外の事例の参考にもいいのではないでしょうか。
『閃めく経絡(ひらめくけいらく)―現代医学のミステリーに鍼灸の“サイエンス”が挑む!』
日本でも医療の分野で鍼灸が入ってもらいたいと思いますが、東洋医学の考え方で入るのは入れてもらいにくそうですし、治療の形もツボではなく、全体治療が中心なので、救急だと処置をしながら鍼というのも現実的ではない状況になるので難しそうですね。やっぱりまとめるのは難しいですが、日本なりの穴性学の教科書があるといいのかなと思いますね。
『刺鍼事故』は中国書籍の翻訳になるので、内容的には日本にはそぐわない点もありますが、鍼での事故はどのような物があるのかを知るためにはいい書籍だと思います。治療に関する書籍を読むのもいいですが、物事を知るためには、いい点と悪い点の両方を知ることが重要なので、こちらは必読の書なのではないでしょうか。
『刺鍼事故―処置と予防』
9.まとめ
初心者用としていろいろな書籍を紹介していきましたが、小説を読めば患者さんとの会話にも役立ちますし、話し方や伝え方の練習にもなるので、本は無駄になることが少ないので、いろいろと読んでいくのがいいと思います。
私自身は気になったら、その分野の本を何冊か読んでみて、また忘れたら、その分野の本を何冊か読んでみるのを継続しています。そのうち、「これはあれと繋がるな」というのが出てくるのは、知識が増えただけではなく、理解してきたからなのでしょうね。
本は買うのにお金が必要なので、いくらでも読むのは難しいですが、図書館を利用することで、自分では買わないかもという本も見ていくことが出来るので、公共施設はしっかりと活用していくのがいいですね。地域によっては東洋医学関係の書籍があるので、誰かがリクエストを入れて、入荷してくれたのでしょうね。