過敏性腸症候群(IBS)と鍼灸治療

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 過敏性腸症候群の方は、腹痛が生じることが多く、便秘と下痢を繰り返すことが多いので、仕事に行こうと思って電車に乗っても、トイレに行きたくなってしまい、電車に乗り続けることが出来なくなるので、生活で困ってしまう人も多いのではないかと思います。

 今回は、過敏性腸症候群に対して東洋医学ではどう考えていくかという点と治療、セルフケアについて書いてみたいと思います。

 

 過敏性腸症候群の方は、お腹が弱いと考えていくことも出来るので、食生活では暴飲暴食、不規則な食事時間、量に注意をする必要があり、規則正しい食習慣が大切になっていきます。刺激が強い飲食物の摂取は注意をしないといけないですし、冷たい物も刺激になりやすいので注意をした方がいいと言われています。

 

 過敏性腸症候群では腹痛が発生をしやすく、便秘と下痢が発生をしやすいと考えていくので、東洋医学を使っていく鍼灸治療では病能を鑑別していくことが大切になり、発生している症状によっては治療を変えていく必要があります。

 

 東洋医学では、お腹の調子が悪く、腹痛、便秘、下痢が発生するのであれば、脾胃の働きの異常と考えていくことがあるのですが、過敏性腸症候群の場合は、脾胃だけではなく、肝を考えていく必要があります。

 

 過敏性腸症候群では、知覚過敏とストレスが原因になっていることが多く、喜怒哀楽を表現するのが苦手な人や感情の自覚をしにくい人で発生をしやすいと言われていますが、東洋医学では感情の調節とストレスは肝と関係をしやすいと考えられているので、鍼灸で治療を行っていくときには、肝の働きを考えていくことが大切になっていきます。

 

 東洋医学では人の身体は自然と同じような機能があるのが当然と考えていて、肝は自然では木と関係をするという五行の考え方があります。木は、のびのびと成長していく姿であり、広がりを持っていくのですが、ストレスがかかると、木はのびのびと成長をしていくことができなくなり、広がることも出来ずに枯れてしまうので、ストレスがかかったときには、肝の働きが木のように阻害をされてしまうというイメージがあります。

 

 肝の働きが低下をしてしまった状態は、血が不足をしてしまっときか、気の流れが悪くなってしまったときがあり、ストレスが影響していくときには、肝の気の流れが悪くなってしまった状態と考えていきます。

 

 肝の気の流れが悪くなってしまった状態を気滞(きたい)と表現をしていくのですが、気滞が発生をすると、慢性的なお腹の痛みが生じてしまったり、お腹の中に絶えずガスが貯まってしまったり、ガスがたまりやすくなったりしてしまうので、お腹の膨満感の場合も肝の問題を考えていくことができます。

 

 過敏性腸症候群が発生をしている方では、便秘・下痢だけではなく、お腹が張るような腹痛、膨満感、ガスの話しが出てくることが多いので、症状と臓腑の働きから肝の問題として考えていくことになります。

 

 肝の働きは、消化吸収に関係をしていく脾胃の働きにも関与をしているのですが、肝の問題である気滞が発生をしてしまうと、脾胃の働きに影響が出て、腹痛、便秘、下痢が発生をしてしまうので、どういった症状が一番ひどいのかによって治療とセルフケアを分けていくことが必要になります。

 

 過敏性腸症候群では肝の問題が大きいと考えることが鍼灸治療では多いので、過敏性腸症候群であれば、まずは肝の治療を優先するのが大切になっていきます。鍼灸師であれば、肝経のツボを使うというので理解が出来ると思うのですが、一般の人からしたらどこを自分でやればいいのか分からないので、簡単なところをお勧めすることが多いです。

 

 ツボを使う方法であれば、太衝というツボがいいのですが、足の甲側で親指と人差し指の間になり、下駄やビーチサンダルの鼻緒が当る位置よりは少し足首側になるので、反対の踵で踏みつけて前後に動かして強めに擦ると効果的です。

 

 それ以外には、大腿の内側は肝経が走行をしているところになるので、あぐらをかいた状態で、左の大腿内側に左の肘や右の前腕部を押し当てて、揉んだり、擦ったりすることで肝経に刺激を入れる方法もあります。

 

 他には肝経は頭頂部と関係をしやすいので、のぼせがでないようであれば、ホットタオルを作って頭頂部に置いてみたり、刮痧という石状の物で頭部を擦ったりという方法がありますが、刮痧であまり強く擦ってしまうと、後で痛みが出てしまうことがあるので、やりすぎには注意が必要になります。

 

 過敏性腸症候群と腹痛に対する対処としては、以上を継続していくことで徐々に変化をしていくことがあるのですが、便秘・下痢に対しては、さらに治療を加えていくことができるので、東洋医学的な病能を把握していくことが必要になります。

 

 脾の働きが低下をしてしまったときに下痢が生じやすく、胃の働きが低下をしてしまったときに便秘が生じやすいので、下痢のときには肝と脾で考え、便秘のときには肝と胃で考えていくことが必要になります。

 

 脾と胃は鍼灸治療で行う時には、細かく分けて行うこともできるのですが、セルフケアで行う場合には、それほど分けなくてもいいのではないかと思います。少しでも刺激をしてお腹の調子つまりは脾胃の調子がよくなれば、ストレスで肝に問題が生じても、便秘や下痢という症状が発生をしなくなるので、脾胃を分けずにケアをするというのはお腹の調子を整えていくことになります。

 

 お腹の調子を整えるのには、円皮鍼、お灸がやりやすいものなのですが、円皮鍼は一般の人でもシールなので簡単に使っていくことができますが、お灸は熱を使う物になるので、やってくれる人がいないとやりにくい傾向があるので、代わりにカイロを使う方法もあります。

 

 お腹の調子を整えていくのには、内くるぶしの上3寸(小指をうちくるぶしに当て、人差し指の端のところで、脛骨という骨の後ろぎりぎり)の三陰交や、足三里(膝蓋骨の下に凹みがあり、また大きな骨がその下にありますが、そのさらに下のところ)に円皮鍼を行ったり、お灸を行ったり、指で押したりすると効果が出てくることがあります。

 

 お腹の臍周囲や腰も効果的なのですが、この辺りには低温火傷に注意をしながら、カイロを使っていくと、お腹の不快感や症状が軽減することがあるのでお勧めの方法になります。

 

 鍼灸だと胃の六つ灸という背中にあるお腹の調子を整えるツボ達もよく使用していくのですが、背中は手が届きにくい場所なので、やはりシャツにカイロを貼って行うのがいいと思います。胃の六つ灸は膈兪・肝兪・脾兪というツボになるのですが、肩甲骨の下から腰の少し上までの背骨近くだと思っておくと、カイロを横に貼ればカバーできるので、気持ちが良くて楽になりそうだと感じるところを使うといいと思いますね。

 

 腹巻が気にならない人は、腹巻をしておくと、お腹を冷やすことがなく、調子を整えやすいので、長く使っていくのであれば腹巻の方が経済的だと思いますよ。

 

 過敏性腸症候群は数回の治療で治るという訳ではく、継続した治療が必要になってくる疾患の一つですが、完璧に症状が消えるということもありますが、生活の中のストレスと関係をしやすいので、症状が緩和されたり、出にくくなったりすることがあると思いますよ。

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