脈の基本として祖脈があり、祖脈には浮沈遲数虚実があります。祖脈は全て基準となる脈であり、理解できるようになれば、身体の状態を推測できる脈になります。特殊な脈の構成も祖脈が基本となることが多いので、何度も診て慣れて行く必要があります。
1.浮脈
浮脈は、橈骨動脈に手を触れたときにすぐに感じる物であり、按じていくと脈の感じ方が弱くなる脈になります。脈の形のイメージとしては「▽」の状態になります。「▽」の上が浮の部分で、下の部分が沈、間が中になります。触れた瞬間が非常に強く感じやすい脈なので、何人かに触れていくと理解しやすい脈だと思いますが、浮脈の人しか触れたことがないと差が分かりにくいと思います。
最初の段階では、脈を診る加減が分からないので、どうしても強くなりがちになってしまうので、橈骨動脈の場所で指を置いただけで感じる物を浮として捉えるようにすると、浮脈の感覚が分かるのではないでしょうか。
手の感覚が鋭くなってくると、橈骨動脈の皮膚に触れるかどうかの圧加減でも脈を強く感じるようになるので、熟練してくると浮脈として取りやすいのではないかと思います。
私自身も最初は全く分からなかったので、脈診に慣れている人が触った浮脈はずいぶん圧加減が弱くて、触れているかどうかぐらいで浮脈と判定していると感じた経験によります。
技術は経験によって変化し、治療技術も変化していくので、非常に浅いところで浮脈として感じて治療をするという体系が作られていくのであれば治療効果が出るでしょうが、初心者の段階から同じように感じて同じようにやろうとすると難しいのではないかと思います。
2.浮脈が出る原因
脈診は示指中指薬指の3本の指で診ていくので全体として感じることが大切なのですが、示指は寸口、中指は関上、薬指は尺中と言われ別々に診ていくこともできます。浮脈は寸口、関上で生じやすい脈とも言われるので、浮脈というのを分かるようにしたいのであれば、示指・中指だけの2指で診ていくのも一つの方法だと思います。寸口・関上で浮脈が現れやすいのは、橈骨茎状突起という骨が深部にあり、手関節に向って太くなっていくので、構造的に脈が浮いてきやすいです。
東洋医学的な考え方では、熱は上に昇りやすく、上部に停滞しやすい性質があるので、寸口は上焦、関上は中焦、尺中は下焦と対応しているので、上部になるほど熱の影響が強くなるので、脈にも影響が出て浮脈が感じやすい状態と言えます。
脈が浮いてくるは身体の状態と関係をしやすいので、虚実を合わせて考えていくのが大切になります。例えば、運動をして身体が活発な状態になっているときには、心臓の拍動も強くなり、心臓がドクンドクンと脈を打つ状態になりますが、脈も同様に強く浮いてくる性質があるので、浮脈が生じている場合は、熱がある状態や身体が過活動の状態ではないかと考えていくことができます。
この場合は、脈の強さも強く感じるので実脈を伴うことが多く、強く浮いているような感じがすることになります。治療に入る時は余程焦って治療院に来たときでない限り、運動をしている訳ではないですし、着替えをしてベッドで少しゆっくりしているのに、運動している時と同じように、浮いていて強い脈が出ていればおかしいですよね。
こういったおかしいと変化を感じることが出来るのが脈診の魅力でもあるので、治療の中に置いては何度も触れていくのがいいでしょうし、鍼をしたら脈が変わらないかという検脈(けんみゃく)を行っていくと、脈の変化していく様子も分かるようになっていくので、脈診の技術が向上しやすいですよ。
浮脈と実脈が合わさった場合は、身体が過活動であり熱があると考えられますが、通常の状態で発生しやすいのは、運動中~後、風邪で熱があるときなので、自分の脈の変化を普段から意識すると理解しやすいです。
浮脈で虚脈が合わさっていく場合のイメージは風船が空へ飛んでいってしまうような状態なので、浮いていて触れやすいけど、弱々しい状態になります。この場合は、風船を押さえておく力が無くなってしまった状態としてイメージしておくと少しは理解しやすいのではないでしょうか。
浮脈と虚脈が合わさった状態は、慢性疾患による身体の極度の低下なので、状態としてはよくない傾向があります。
単純に浮脈だけで考える場合は、外邪と関係していることが多いので、風邪のひきはじめで熱が出ていない状態でも浮脈が生じることがあります。
3.沈脈
沈脈は、橈骨動脈に手を触れたときに感じにくい脈であり、案じていくと脈の感じ方が強くなる脈になります。脈の形のイメージとしては「△」の状態になります。強く押しすぎてしまうと脈をつぶしてしまい、ほとんど何も感じることができないので、骨のところまで深く圧迫したところより少し上になります。
少し上と言っても、浮~沈までの深さは人にもよりますが5㎜程度だと思うので、骨の1㎜上かどうかという程度なので、最初の段階では圧加減の調節が難しいですね。浮脈と同様に、手の感覚が鋭くなると、沈脈も触れやすくなりますが、触れたときに感じてしまうので、やはり浮脈を取りやすくなると思います。
4.沈脈が出る原因
沈脈を触れやすいのは関上が分かりやすいと思います。構造的に橈骨茎状突起があるので、触れやすいですね。関上は臓腑では脾胃と対応していて、脾胃は飲食と関わっているので、死ぬまで人は食べ続けるので、沈にしっかりと脈があり続けるのは当然とも言えますね。
沈脈も浮脈と同様に、虚実を合わせて考えていくのが大切になります。沈はどのような状態のときに生じるかと言えば、冷えが生じているときに生じやすいので、寒さを感じているときに自分の脈を診てみるといいですよ。
現代医学的に、寒くなると体温を体外に出さないようにするために、血管を細めて血流速度を上げて血流量を少なくすることで体温の低下を防ぐので、沈脈が発生しやすい状態になります。
東洋医学的な考え方では、寒邪には凝滞・収引性という働きがあるので、気血の流れが悪くなり、血流量の低下によって脈が上に伸びる性質も低下させられるので、沈脈が発生してしまうことになります。
沈脈で実脈が合わさった場合は、寒邪が影響していると考えていくのですが、身体が正常な状態では気血も十分にあり、寒邪によって停滞が生じていることで、表である浮に行けない分が裏である沈に存在してしまうので、脈を強く感じることになります。
沈脈で虚脈が合わさった場合は、気血の不足があり、脈自体の力強さがない上に、流れが悪くなってしまうことで、沈で弱々しい脈になってしまうので、祖脈の浮沈と虚実はいつも意識しながら触れていくのが大切です。
単純に沈脈だけで考える場合は、冷えも関係することもありますが、裏の障害が発生しているのではないかと考えていくこともできるのですが、通常は、浮脈だけではなく、虚実、遲数なども複合して診ていくの、浮沈だけでは確定するのは難しいですね。
5.脈診に強くなるためには
脈診に強くなるためには技術になるので、多くの経験を積んだ方がいいので、出来るだけいろいろな人の脈を診た方がいいです。
例えば、「黒」と「白」という色の違いは見分けが付きやすいですよね。「黒」と「白」を混ぜれば「灰色」になりますが、これが脈の「浮」「中」「沈」と同様なので「黒に近い灰色」「白に近い灰色」も経験を積めば分けられますよね。
多くの経験を積むということは、この微妙な色を沢山みるのと同じことなので、沢山の経験を積んで行けば、ランク付けも一瞬でできますね。これが、「黒」ばかりを診ている状態になると、「白」の方が弱くなってしまうので、「黒」だけで物事を判定してしまうことになるので、いろいろな人、いろいろな状況の脈を診るのを意識した方がいいですね。
私自身は脈診で全てが分かる訳ではありませんが、色の見分けが出来るように多くの状況を触れていきたいなと思っています。
6.遅脈・数脈の意味は?
祖脈は浮沈、虚実、遲数があげられていきますが、遅脈は寒である冷え、数脈は熱と関係しやすいので、浮沈と同様に寒熱と関係をしていることがあり、寒熱が血に影響をした状態として考えていくことが出来るので、遲数は身体の寒熱状態を表すものになります。
寒熱が存在しない状態もあるので、その場合は、遲数はなく、浮沈・虚実で判定をしていくことになります。こういった考え方は八綱弁証と同じになるので、以前のブログにも書いているので参考にしてみてください。
7.滑脈・濇脈の意味は?
滑脈は気血の循環が正常で、濇脈は気血の循環不全が生じていることになるので、身体の問題がどこまで影響しているのか考えていくことができます。滑脈であれば、気血の循環はまだ保たれているので、順逆で言えば、順の状態であると言えるので、治療効果があがりやすいのではないかと考えていけます。
濇脈の場合は、気血の循環にも問題が生じていて、瘀血が発生している状態になるので、順逆で言えば、逆の状態であると言えるので、治療効果があがりにくく、なかなか治りにくいのではないかと考えることが出来ます。
浮沈・遲数・虚実・滑濇という4分類の脈は、よく診ていくようになると何となく自分の中で身体のイメージ、治療のイメージにも繋がっていくので、最初のうちは継続して診て、治療の度に確認をしていくと、脈診の上達が早くなると思います。
8.まとめ
脈診は感覚に頼るもので分かりにくいので敬遠されることがあるかもしれませんが、せっかく治療するのであれば、ついでに脈も触った方がいいですし、せめて祖脈だけは確認した方がいいかと思うので、今回ブログでまとめてみました。
私自身も脈診がいまひとつ分かりにくかったのですが、祖脈を意識するようになってからは、とにかく診てみて、データで残してみて、治療前後の変化、人ごとに違いを意識出来るようになったので、初心者の方には試してみてもらいたいと思います。