小柴胡湯(しょうさいことう)と大柴胡湯(だいさいことう)

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 漢方薬には似た名前の物が多く、慣れないと何が違うのか分かりにくい傾向があります。特に柴胡湯類と言われる、柴胡と名前がつく漢方薬は多くあるので、分かりにくいのではないでしょうか。

 柴胡湯は間質性肺炎という副作用を起こすと有名になった漢方薬で、肝炎の治療薬であるインターフェロンを使っている人では禁忌となりました。

 

 その当時は、C型肝炎に対する治療としてインターフェロン療法を行うのに、小柴胡湯を合わせると効果があるという報告も出ていたようですが、副作用として間質性肺炎を生じてしまい、亡くなるという事故が起きたので、インターフェロンとの併用が禁止されました。

 

 現在では、インターフェロン製剤を投与中の人、肝硬変や肝癌の人、慢性肝炎による肝機能障害で血小板が10万/㎜3以下の患者(肝硬変の疑い)には禁忌となっています。

 

 漢方薬では副作用が少ないと考える人もいますが、他の薬との併用で副作用が生じることがありますし、東洋医学的な証(しょう:体質、身体の状態)と合わないと、望む効果が生じないだけではなく、副作用が生じることがあるので、注意が必要です。

 

 私自身も体調によっていろいろな漢方薬を飲んでみたことがありますが、劇的な効果がある場合もありましたが、歩くのも辛くなるぐらいだるくなるという状態にもなったことがあるので、証にあった漢方薬という考え方は重要だと思っています。

 

1.小柴胡湯と大柴胡湯の違い

 小柴胡湯と大柴胡湯は少陽病のときに使われる漢方薬で、少陽病は半表半裏証(はんぴょうはんりしょう)とも言われます。症状は、みぞおちからお腹、脇にかけて張って苦しいという、消化器系と考えられる症状が出てくることが多いために、消化器系に不調がある人に使われやすい漢方薬です。

 

 小柴胡湯と大柴胡湯を使い分ける基準は、実証か虚証かという身体の状態の違いによって分けていくことになります。実か虚というのは東洋医学では重要な概念であり、簡潔な言い方をすれば、体質・状態が強いか弱いかによって使い分けると言えます。

 

 柴胡湯類で虚実を合わせた考え方だと、以下のような順番になります。

  • 大柴胡湯
  • 柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
  • 小柴胡湯
  • 柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
  • 柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)

 

 同じような症状でも身体の状態(虚実)の違いによって、配合される生薬(しょうやく)に違いが出るために、漢方薬も変化していきます。

 

 腹部のつかえるような感じでは、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)が利用されていきますが、こちらの漢方薬は柴胡湯の状態より病が深く身体に侵入してしまい、身体の上下の働きに障害が発生してしまったために、腹部につかえ感が生じてしまった場合に利用されていきます。

 

2.大柴胡湯

 大柴胡湯は、便秘気味、みぞおちの辺りのつかえ、高血圧、肩こり、頭痛、便秘などがある方に利用されやすく、比較的体力がある方に利用されていきます。

 

 東洋医学の考え方では、肝鬱気滞を取り除き、肝胃不和を改善することによって吐き気を軽減して排便を促すと考えられます。身体の中に停滞すると熱になりやすいので、熱を取り除く働きもあります。

 

 大柴胡湯は、柴胡、生姜(しょうきょう)、黄芩(おうごん)、芍薬(しゃくやく)、半夏(はんげ)、大棗(たいそう)、枳実(きじつ)、大横(だいおう)が配合されていることが多いです。

 

 柴胡・黄芩・大横は清熱の働きがあり、柴胡・芍薬・大棗は肝鬱気滞を取り除き、半夏・生姜・枳実は胃の働きの改善を促すと考えていきます。その他にも細かい作用がありますが、これは生薬の知識が必要になっていきます。

 

 陰虚傾向の人、虚証の人には適さないので、陰虚症状である五心煩熱(ごしんはんねつ:手足や胸のほてり)や盗汗(とうかん:寝汗)には注意が必要です。

 

3.小柴胡湯

 小柴胡湯は、みぞおち辺りのつかえ、食欲不振、吐き気、口の粘りや口の苦み、疲労感がある人に利用されていきます。

 

 東洋医学の考え方では、大柴胡湯と同様に肝鬱気滞を取り除くのは同じなのですが、脾胃の弱りを改善していくという考え方になります。

 

 小柴胡湯は、柴胡、半夏、生姜、黄芩、人参(にんじん)、大棗、甘草(かんぞう)が配合されることが多く、大柴胡湯から芍薬・半夏・枳実を取り除き、人参・甘草が加えられています。

 

 人参と甘草は脾胃という消化器系を強めていく働きがある生薬として考えられているので、大柴胡湯と比べると、消化器系の弱りを意識した漢方薬になっています。

 

 大柴胡湯と同様に、陰虚傾向の人には適さないですが、虚証に対しては利用していくことができます。ただし、柴胡湯類は基本的には、実証タイプの人に用いられる漢方薬になるので、体質的に虚が強い人には用いるのは注意が必要になります。

 

4.まとめ

 漢方薬を独学で学び始めてから既に10年近くになっています。普段、処方する訳ではないし、利用することも少なかったですし、それほど頭がよくないので、少しずつ理解ができるようになってきましたが、最初の頃は小柴胡湯と大柴胡湯の違いが全く理解できなかったです。

 

 勉強し始めた当時の自分に対して言えるのは、東洋医学の基本概念である、気血津液・臓腑をしっかりと学び、虚実の概念にも強くなれば漢方を理解しやすくなるので、基本を大切にした方がいいということですね。

 

 ブログに書くようになってから特に理解が進んだので、やはり話したり、書いたりというアウトプットをしないと、本当の意味で理解できないのでしょうね。

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