芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)

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 足がつるという人に出される漢方で代表的なものは芍薬甘草湯なので、夜中に足がつると言ったら、漢方をもらったという場合は、ほぼ芍薬甘草湯になります。

 芍薬甘草湯は、和解剤と言われ、調和肝脾剤と言われています。治療としては、お腹の痙攣痛み、四肢や筋肉のひきつりとつってしまう状態の治療に適しています。他の症状としては、「胸脇脹痛、腹痛、悪心、嘔吐、下痢」も含まれるので、腹部の症状に対しても治療効果があります。

 

 芍薬甘草湯も八綱弁証で考えてみるとイメージがしやすいと言いたいところなのですが、実際はちょっとイメージがしにくいものになります。何故かというと、八綱弁証としては裏虚平証と考える方がイメージをしやすいのですが、寒熱が入ることもあるからなのです。

 

 八綱弁証での寒熱は、冷やす力の不足が虚熱、温める力の不足が虚寒ということにしているので、熱い・寒いというのが大切になります。芍薬甘草湯の症状を見てみると熱い・寒いというのがあまりないのですが、身体を滋養・冷やす働きが不足をした陰虚の状態がベースにあるので、虚熱(陰虚)と考えることが出来るので、寒熱を入れて話しをすることもできます。

 

 余計に混乱をさせてしまったら申し訳ありません。

 

 芍薬甘草湯の病態は、肝陰の不足が生じてしまって生じてくるのですが、この陰は冷やす力の陰というよりは、の不足が中心になります。そのため、芍薬甘草湯は肝血虚証に対して用いる漢方薬と言われることがあります。肝血虚証であれば、八綱弁証は裏虚平証になります。

 

 ただ、血は陰気と考えることが出来るので、肝血不足は肝陰不足として捉えていくことになるので、肝陰虚と表現をすることが出来ます。肝の生理機能では陰陽で考えていくことが出来るのは「肝の働き」で説明をしたように、肝陰が不足をすると肝陽(肝気)とのバランスが失調してしまい、肝陽(肝気)を抑えることができなくなります。

 

 抑えられない肝陽(肝気)はどうなるかと言うと、脾の働きを損傷していくことになるので、五行で言えば、木克土の状態になります。これは五行の相克関係の失調になるのですが、詳細はこちらを参照してください。「東洋医学で考える相性―五行

 

 芍薬甘草湯には白芍(びゃくしゃく)と炙甘草(しゃかんぞう)が含まれていて、白芍は肝・脾に治療効果があるもので血を補う働きがあります。芍薬に似たような漢方薬だと当帰があるので、血虚が見られる人には当帰が含まれる漢方薬が使われることがあります。

 

 当帰はハーブティーではアンジェリカ(アンゼリカティー)として取ることも出来るので、女性にはお勧めのハーブティーですね。

 

 話しがそれました。炙甘草は血を補う働きがあるので、芍薬を補う働きがあるものになります。

 

 芍薬甘草湯を鍼灸治療として考えていくときには、肝血虚・肝うつ気滞・気虚が交じり合った病能として考えるのがいいと思います。

 

 芍薬甘草湯は肝血虚として捉えてしまうと、病能としては中途半端になってしまうので、気滞・脾気虚を見逃さないようにすることが大切になります。

 

 肝脾の問題が生じているので、太衝や三陰交を用いていくのでも効果がありますが、気滞も生じているので、募穴や気のめぐりをよくすることを考えることも重要になります。合谷は気をめぐらせる働きが強いので、芍薬甘草湯を用いるような人には使いたい経穴の一つになりますが、太衝を使っていくと、肝気に対する作用が強くなるので、陰(血)に対する作用を考えると太衝よりは三陰交の方が効果的だと思います。

 

 血の不足が元になっている状態なので、血を生成する脾の働きを強めていくのが重要なので、脾に対する治療ということで中焦のツボは効果を狙いやすいのではないかと思います。

 

 血の治療をしていても効果が見られない場合は、血の不足を補う精の問題が絡んでくることもあるので、腎の状態にも注意をしておくと治療としての幅が広がるのではないでしょうか。

 

 芍薬甘草湯は足がつるのに効果があるというのは、足がつるという筋の異常収縮は、筋を栄養する血が十分ではないことによって生じると考えています。音楽プレイヤーが壊れたり、おかしくなったりすると、音楽を最初から最後まで再生できずに、途中で切れて、同じ音が何度も出ることがありますが、そういった状態が筋に起きてしまっていると考えるといいのではないでしょうか。

 

 身体全体の力がなくなれば気の問題として捉え、筋の異常運動は血の問題として捉えるようにすると、患者さんの病態を東洋医学で説明できるきっかけになると思いますよ。

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