抑肝散(よくかんさん)

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 抑肝散は小児の疳の虫(かんのむし)に使われる処方で、小児の夜中に対して効果があるとされているのですが、最近では認知症の周辺症状にも効果があるということで注目を集めている漢方薬です。

 小児の疳の虫は、小児が意味不明にぐずったり、神経質になったりすることで、ひどくなると精神の高ぶりから夜泣きをするようになります。患者さんの子どもでも、夜に全く寝ないので、育児疲れが酷くなってしまった人がいるので、そういうときには、漢方薬では抑肝散、鍼では身柱が効果的になります。

 

 認知症は中核症状と周辺症状(BPSDに分けられていて、中核症状は脳の細胞が壊れることで起こる症状であり、認知症の人はみんな持つ症状です。周辺症状は行動・心理症状とも言われるものです。

 

 認知症の中核症状には、記憶障害(物忘れ)、見当識障害(日時・場所が分からなくなる)、実行機能障害(目的を持った行動ができない、例:食事を作れない)、高次機能障害(失語:言語機能障害、失認:状況把握がしにくくなる、失行:服の着方を忘れる)があり、程度によっては日常生活が困難になります。

 

 周辺症状で問題になりやすいのは、徘徊、物盗られ妄想(どこに置いたのか忘れるので周りの人が盗んだと感じる)、暴力などがあり、介護をしている人達が大変になることが苦労をすることが多く、介護するのが大変になってしまうことがあります。

 

 抑肝散はこの問題となりやすい周辺症状を軽減するのに効果があると言われているので、介護をしている人達に取っては嬉しい治療効果ですね。

 

 抑肝散は肝うつ脾虚の状態になっていることが多く、気滞と気虚の両方が混在している病証になります。抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)もよく使われる処方ですが、この場合は、肝腎陰虚に対しての漢方薬になります。

肝の働き

脾の働き

 

 肝気のうっ滞によって気機が阻滞し、相克関係にある脾の働きを低下させているのが、肝うつ脾虚の状態になります。肝気はうっ滞すると昇りやすい性質があるので、脳(髄海)の異常が生じやすくなると考えることができます。

 五行に関してはこちらをご覧下さい。

東洋医学で考える相性―五行

風水と東洋医学―五行

 

 肝気が阻滞していることで、陰血が停滞してしまっている状態になるので、見かけ上は陰虚のような病能になってしまうことになります。抑肝散には、釣藤鈎(ちょうとうこう)が含まれているのですが、釣藤鈎は肝陰の不足を補い、陰血の停滞によって発生してしまっている風邪を取り除く働きがあります。

 

 柴胡や川芎は肝うつ気滞を取り除きやすい漢方薬になるのですが、柴胡はインターフェロン投与中の者、肝硬変、肝がん、肝機能障害がある人が摂取をすると、副作用として間質性肺炎を生じてしまうので、注意が必要な漢方薬になります。柴胡は疏肝を図って、肝気のうっ滞を改善するのですが、実証向けの漢方薬でもあり、陰血の消耗にも繋がってしまうので、長期服用では注意が必要ですね。

 

 他には当帰も含まれているのですが、当帰は血を補う働きがあるので、肝血を補っていくという機能があります。白朮、伏苓、甘草は脾虚を改善させるための生薬になるので、肝気のうっ滞、肝血の補充、脾気を補うというのが抑肝散の働きになります。甘草も多用してしまうと偽アルドステロン症になってしまうので、服用には注意が必要です。

東洋医学の血と現代医学の血液の違いは?

 

 漢方薬では臓腑の働きの調整を行うという考えがあり、気血・陰陽の調整を行うという考え方をしていくので、身体のバランスを考えた処方を使う必要があります。

 

 漢方薬の処方では、複数の生薬が組み合わされていますが、組み合わせ方は君臣佐使(くんしんさし)と言われています。生薬によって、メインの働きとなるのが君になり、その他は君を支えて助けるという意味があるので、複合処方が中心と言われています。

 

 複合処方ということは、様々な物が含まれていくので、注意をしないと副作用が生じる危険性が高まってしまいます。1種類の成分であれば、身体の中でどのような働きをするのかを調べることが出来るのですが、漢方薬で使われている生薬は成分ではなく、草や根という物質が中心になります。

 

 物質は、様々な成分によって成り立っているので、一つの生薬の働きを調べるだけでもかなり大変なことになり、さらに複合処方なので、身体でどのように機能をするのかを調べるのが大変になっています。

 

 漢方薬の成分から一つ抜くだけでも効果がなくなることがあるので、昔から使われてきた経験が非常に大切になります。もちろん、経験だけではなく、現代医学の知識をしっかりとつけることによって副作用が予防できるので、しっかりと学習をし続けることが大切になります。

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